コミュニティサロン改修計画

近代以降、裕福層が定住するようになり、低層建築の建ち並ぶ今の街区が形成されてきた歴史ある武庫之荘の地。
現在も整然とした趣きで、あちこちに記念公園や類する公共施設が点在している。
古くは城下町として栄え、その面影が垣間見える修景は訪れる人の意識を中世へと誘う。

その格子状の街並みを目にしたとき、既存建物ファサードのスクエアなタイルとイメージが重なった。ここから「スクエア」がキーワードとなり、内装に至るまでの当計画のデザインに取り込むこととなった。

本来の意味での格子は、奈良・飛鳥時代に隋から渡来した文化的遺物と言える。
当初、神と人との境として機能していた格子が時代が下るにつれ、その物理的距離に緩く変化がもたらされ現代に至っている。
ここでは、そんな過去と現代の情景を行き来するようなノスタルジックなニュアンスを求めている。

明快なプラン、整然としたゾーニング、高低差によるエリア認識、視界の通る壁、自然を呼び込むエントランスなど、ゆとりのあるフレキシブルな空間を描いた。

プランを明快にして余白を含むと、空間は、人の往来・交流を生む活動的でフレキシブルなものになる。
高低差によって「跨ぐ」という行為がともなう。これも本来、神域に立ち入るときの心を静めるための所作だ。靴を脱ぎ、腰を掛けることで、視点が下がり視界も変わる。気持ちも新たにそれぞれの作業に勤しむ。
視界の通る壁は格子そのもの。感覚的には隔てて心理的にはつながる格子本来の意味を再確認し、訪れる人それぞれが空間から「何か」を感じてくれれば。
ロケーションは、奥行きが深い間取りゆえに外の気配を感じにくい。表通りはケヤキの並木道があり、程よく気持ちのよい環境だ。その感覚を内部に取り込むため、エントランスの一部をガラス床として、室内にいながら映り込むケヤキを楽しむことができる。

安価で、装飾ではない原材料的な素材を用いることはピュアな視点で物事を観察・評価しやすい。その分、粗も出やすいのだが、それそのものも味として捉えたい。この行為は、モノの奥行きを図るうえでの一つの解釈だと思っている。

また、次のことを想うとき、解体ひとつをとっても楽でコスト減につながり、環境にも優しい。
次の次くらいは想像しておきたいところだが、その一つ前をクリアにしておくことで、おぼろげでもイメージを膨らませやすくなるのではないかと思う。

そんな視点で、これからも設計に携わっていきたい。

クライアント:指名プロポーザル
事業内容:リノベーション計画